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 意識を集中しても、気配をほとんど感じなかった。
 それはナルトにとって珍しいことで、純粋に彼らの実力に驚く。
 気配の隠し方だけを見れば、木の葉のどんな暗部よりできていた。
 もっともそうでなければ我愛羅の護衛なんてできるはずもない。
「いまさら許してもらおうとは思ってないよ」
 テマリが言う。
 それは我愛羅のことだ。
 幼い頃、味方になってやらなかったから。
 姉と兄は、今の我愛羅にそれなりに責任を感じているらしい。
「でもそれって仕方の無いことだってばよ」
「お前はそう思えるのか?」
「……思わないと、辛い」
 だいたい、とナルトは呟く。
「仲悪そーだったってばよ」
「我愛羅と仲がよかったらこっちが消されるじゃん」
 そう言ったのはカンクロウだ。
「それでも我愛羅には必要だったんだ。隣に居てくれるだれかが」
 ナルトは思う。
 俺には誰が居たのだろうと。
 少なくとも三代目のじゃっちゃんがいた。
 思えば彼が守っていてくれた。
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 じりじりと日差しが照りつける。
 忍とはいえ下の下はほとんど雑用係に近い。
 そんなわけで、今日はでっかい屋敷の庭の手入れなんかをさせられている。
 今日は合同任務だった。
 いのは手馴れた手つきで、花の種をまいていく。
 家が花屋なのでこういった仕事が嫌いなわけではないが、やっぱりうんざりしてきた。
「はー。ナルトはいいよね。影分身できて」
 思わず呟いてしまう。
 となりではナルトが大量に草をむしっていた。
 いくつか大事な薬草もそのなかには混じっている。それはもちろんわざとだ。
 ナルトが顔をあげる。
 みんなの前ではめずらしく嫌そうな顔をしていた。
 どうしたのと声をかける間もなく。
「おいちょっと待て、いの。本当にそう思ってるの?」
 そういわれて、いのは手を止めてナルトの顔をみる。
 チャクラで気配をさぐる。
 そこで唐突に気がついた。
「あれ? もしかして本物?」
「そうだってばよ!」
「えー!」
 思わず声をあげる。
 ナルトはあわてていのの口を押さえた。
 遠くにはサスケとサクラのペアがみえる。
 なにやら呆れているようなそぶりだった。
「なんで? こんな下忍の任務なんてかったるいでしょ?」
「いやそうなんだけど」 
 そこで一瞬言葉につまる。
「……せっかくいのと居られるのに」
 そうナルトが言うといのは思わず噴出した。
「おっかしー。自分の影分身に妬くなんて」
「あー笑うなってばよ! みんな変に思うだろ!」

ペアはじゃんけんできまりました。
ナルトは本気で動体視力を駆使していたり。

 子猫のように首根っこを掴まれる。
 ぐえ、とカエルの鳴くような声がでて、ナルトは咳き込んだ。
「だあー! なにするんだってばよ!」
「ちょうどよかったー」
 といのは言う。
「なにがだってばよ!」
 周りが好奇心の視線を向けてくる。
 心の中でナルトは焦った。
 俺とかかわってはいけない。
 だがナルトはここまでやられてもなにも返せない、という性格ではないのだ。
 みんなが知っているナルトは。
 どうやってこの場を切り抜けるか考えているうちに、いのはにたりと笑う。
「はい、これ」
 そういって渡されたのはチョコレート。
 思わず絶句して、それでもなんとか術をよんだ。

 いのが気がつくと、あたりはいつもの風景だった。
 ただいつのまにか握り締めていた右手に、メモが残されていた。
『後で話がしたい』
「……バーカ」
 そう呟くと、いのはこちらに向かって歩いてくるチョウジの姿を見つけた。
「なにしてるの?」
「あ、チョウジ。ちょうどよかったー」
 同じセリフでチョウジにチョコレートを渡す。
「え? いいの?」
「いーのよ。どうせ好きなやつだけに渡せなくて全員にくばってんだから」
 そういって差し出された奴は、少し無骨な形をしたチョコレートだ。
 どう贔屓目にみても失敗作だ。
 それでも手作りをもらえるのはチョウジかシカマルか――例の好きなやつくらいなものだ。
「へえーさっきの包みより大きいんだ」
「だって形が変になったチョコレート喜んでうけとってくれるのチョウジだけだもん。それにきれいで少ないよりはそっちのほうがチョウジも――」
 そこで奇妙な違和感に気がつく。
「あれ? みてたの?」
「みてたよ」
 いのは笑いをこらえきれなくなる。
 やーい、記憶操作失敗してやんの。

バレンタインネタ。

「テマリ」
 とカンクロウが呼んだ。
 私たちは幼いころから、兄弟であるにも関わらずお互いを名前で呼ぶ。
 それを不思議に思ったのは、学校に通うようになってからだ。
 もっともそう思ったところで、これからも弟に姉さんと代名詞で呼ばれることはないだろう。
「見張りは?」
 テマリが訊ねる。
「俺がちゃんと全員眠らせたじゃん?」
「今のは念の為の確認だ」
 たしかめると確かに全員気を失っていた。
 しかし十に満たない子供が簡単にこう突破できていいものだろうか。
 このあたりは誰もやりたがらないせいで、中忍になりたてばかりの者に押し付けられているとはいえ。
 テマリは砂の忍びの質を本気で心配した。
 こっそりとある建物に忍び込む。
 それは二人にとっての末の弟がいるはずだった。
 最後のドアをこっそりと開ける。
 それでも隠し切れない軋む音はチャクラで相殺して、静寂を守る。
 簡素な部屋。
 小さめの子供用のベッドの上に我愛羅がいた。
 うん、よく眠ってるみたいだ。
 唇の動きだけでそうテマリは伝える。
 あのチヨバアから薬術習った甲斐があったな、とカンクロウは口だけ笑った。
 今日は一月の十九日だった。
 我愛羅の誕生日である。
 弟の為のプレゼント。
 それは不恰好なくまのぬいぐるみだった。
 それを置いてすぐに二人は部屋を抜け出した。
 眠っているとはいえ、守鶴は怖かったのだ。
 それに自分達の力を過信してもいなかった。
 すぐに退散しなければ、自分達のしたことはバレてしまうだろう。

 二人の気配が感じられなくなったころ我愛羅はむくりと上半身を起こした。
 眠ったフリ、それは弟なりの気遣いだったのだろう。
 我愛羅はまくらもとにあるプレゼントをみて、手に取った。
 そしてそれをぎゅっと抱きしめた。

 きれいな満月の夜だった。
 人は快楽には慣れるくせに、痛みには慣れることはない。
 それもそのはずで、痛みという感覚が抜け落ちてしまえば人は生き残ることが困難になってしまう。
 でもナルトはほとんどの場合、死ぬような目というものにあわない。
 多少の怪我はなんでもないことなのだ。この体は。
 それが化け物である証である気がして、少しだけうんざりする。
 息を吸おうとして、むせる。
 やっぱり苦しい。
 でもそれは許容範囲内のものだ。
 肋骨も何本か折れてるし、でもそれはあと一時間もすれば直ってしまうだろう。
 むしろ明日からの怪我の演技のほうにうんざりしているくらいだ。
「痛いなあ」
 思わず呟いてしまう。
 どうせ治るのなら、初めから痛くなければいいのに。
 泣こうとして、それが余計に痛みが体を蝕むだけとわかっていたから、やっぱりやめた。

「大丈夫?」
 初めは幻聴かと思った。
 焦点のなかなか合わない目をこらす。
 と、ようやく人影がみえる。
 白い肌を覆い隠すような、闇の色に似た装束。
 それでも見つけられたのはひとえに月の明るさ、といいたいところだがこれも九尾のおかげだ。
 口の端をあげる。
「へーきだってばよ」
「嘘ばっかり」
 ヒナタが言う。
 そう言って差し出したのはぬり薬だ。
 ナルトはそれをありがたく受け取る。
 勝手に治る傷ではあるが、ヒナタのそれは特別だ。
 治る薬ではない。
 麻薬の成分とよく似た、強力な痛み止めだ。
 依存はない。
 ナルトに限って。
 抗体がまったくできない体なのだ。
 できたとしてもすぐに九尾の力にやられてしまう。
 裏を返せばどんな毒にも慣れることはない。
 治る体にはそんなもの無意味だ。
 痛みだけが変わらずに慣れない。
 宿主に、そこまで九尾はやさしくはない。
 普通の人間には使えない禁薬をナルトはぺたぺたと体に塗った。
 すぐに痛み止めは効果をなくしてしまうだろうが、その頃には傷自体が治っている。
 痛みをなくした体で、思ったより憔悴していたことに気がついた。
「少しは自分のこと、大事にしなよ」
「ヒナタが俺のことに気を配ってくれているから、それでいいよ」
 お願いだから、やさしくしないで。
「ナルトくん?」
 ナルトの手が、ヒナタの頬に触れる。
 大切なんかじゃないよとうそぶいて。
 それは彼女を守る一つの手段だ。
 ただでさえ、自分のせいでひどい目にあっているというのに。
 今の状態が心地よすぎて、ずっと彼女に甘えている。
 だからナルトはこの手を振り払ってくれればいいなんて思った。
 彼女がそんなことするわけないと知りながら。


 たとえ傷つける目にあわせることになっても。 ずるい自分は彼女を絶対に手放そうとはしないだろう。

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