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 結局のところ、私は死ななかった。
 助けてくれたのは、夜叉丸だ。
 健康がとりえだった私も、流石に風邪をひいてベッドの上で丸くなっている。
 夜叉丸が鉢で薬草をすりつぶしている。
 あれは一般には毒草といわれているものだ。
 しかし作っているのは毒ではない。その草はアクを抜いて、ほんの少量であればある病状によくきく薬となる。
 だいたいにおいて全ての薬草は毒なのだ。調合しだいでどんな毒にもなる。
 まどろみのなか、テマリは時間の感覚をなくしていた。
 夜叉丸はすでにいない。
 今の時間なら我愛羅の面倒をみているはずだ。
 我愛羅に恐怖の心をなく、接することができるのは夜叉丸だけだ。
 起き上がるとシーツが汗でべっとりと濡れていた。
 それに思わず眉をひそめる。
 砂漠の夜は冷える。それを承知で水浴びをする。
 体を拭くともう具合の悪いところは見当たらなかった。
 使っていたシーツを剥ぎ取り、新しいシーツを用意する。
 古いシーツは洗濯かごの中に放り込む。
 後は夜叉丸がやってくれるはずだ。
 時計をみると、もう夜中だ。
 それでも健康になったとたんに気がついたのはとてもおなかがすいていることだった。
 台所にテマリは向かう。
 そこにはカンクロウがいる。
「テマリ?」
 私はまだ九歳で、カンクロウはたったひとつ年下の弟だ。
 暗部であることを提示するような行動は起こしてないつもりだが、それでもなんとなく気がついているらしい。
 嘘をついているような気分になって、カンクロウから視線をそらす。
「なんだ、まだ寝ていなかったのか」
「……今日は満月じゃん」
 そういえばそうだった。
 珍しくここ数日は雲が空を覆ったので、月の形など記憶してない。
 守鶴が満月の夜にもっとも力を増す。
 直接関係ないことにも思えるし、言われればたしかにそうなのだが、その守鶴を憑依させているのは私たちの弟なのだった。
「我愛羅は?」
「いつもの離れ」
 静かな夜に、咆哮が聞こえる。
 ひどいタイミングだと思ってテマリはため息をつく。
 夜食は食べられそうにもない。
「いくよ、カンクロウ」
 カンクロウは舌打ちをする。
「やっぱり、そうなるか」
 テマリは忍装束を身にまとう。
 それは暗部のものではない。
 一人の砂の忍として、兄弟として、私たちは我愛羅を止める。
「大丈夫だ。我愛羅は私たちを絶対に殺せない」
「でも守鶴は容赦しないじゃん」
 まるで嫌そうに言う彼も、とっくに装束姿だ。
 結局のところ、血の繋がりなんてのはそんなものなのだ。
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