音も立てずに地面に飛び降りる。
一瞬の静寂があって、相手はバラバラになって倒れた。
ただの肉と化した彼らを火遁の術で蒸発させる。
後にはなにも残らない。
その最期まで見届けると暗部の仮面をはずす。現れたのは秋道チョウジの顔だった。
下忍でいるときの表情ではない、冷たい視線。
怪我どころか、返り血すら浴びてはいなかった。
何も痕跡が残ってないことを確認して、チョウジはその場から姿を消した。
今日の下忍の任務は迷い猫の捕獲だった。
これは十班にとって比較的楽な任務だ。
いのは動物に好かれるし、シカマルは影真似の術を持っている。
チョウジはというと食べ物で猫をおびき寄せる、なんてこともやったりする。
そういった実績があるおかげか、今日はアスマの姿はみえなかった。
忍び不足であるきょうび、下忍の任務につきそってばかりはいられないのだろう。
流石に日向ほどではないけれど、ある程度名が知れている家柄の彼らが狙われるのは無理もないことだった。
まずいな、とチョウジは思った。
あきらかに森の奥に進むにつれて、忍びの気配が増えている。
だからと言って、このDランクの任務を中止できるような言い訳は思いつかない。
ことなかれ主義であるシカマルも、この任務を放り出したとしても、また新しい任務を受けることになるだけだということを分かっているからだ。
「ねえいの。ごめん、ボクトイレ行きたくなっちゃった」
いのは立ち止まると呆れた顔をした。もう、じゃあ早く行ってきなよと言う。
本当にごめんねと言うと、少し離れたところに向かう。
もちろんそこにいるのは他国の忍びだ。
音もなく、手裏剣をなげつける。
ひるんだ瞬間に近づいて、糸で首を締めた。
息の根を確認して、次々と殺していく。
チョウジは幻術にはあまり強くない。
だから記憶操作の術は覚えてない。
覚える必要もないと思っている。
敵であるならもう二度と喋れないようにしまえばいいし、たとえばいのやシカマルに見られてしまったら。
彼らに一度でも拒絶されたら、きっと立ち直れない。
何人目かの忍びに手をかけていると、遠くから悲鳴が聞こえた。いのだ。
見られてしまうかもという恐怖。
だけどそんなことを考えている暇はなかった。
すぐに彼らのほうへ走り出す。
たどり着くと、そこでみた光景は二人が傷だらけになっている姿だった。
シカマルのほうは腕をやられているらしい。だらんとぶら下がっている。
シカマルがチョウジに気がつく。
「チョウジ! 来るな!」
言うか言わないかのうちに水遁の術で作られた水鉄砲がチョウジにむかってくる。
チョウジは躊躇わなかった。
いのとシカマルは、ぽかんとしている。
自分達では到底かなわなかった上級の忍びが、あっという間に倒されたのだから。
チョウジは顔を歪ませる。
これからのことを思うと、後悔しそうだった。
しかしやってしまったものはしかたない。
とりあえず怪我した腕をみるためにシカマルに近寄る。
幻術はあまりとくいじゃないが、それでも応急処置のような術は使えた。
その様子を見ながら。
「チョウジ……?」
いのの声が震えていた。
「本当に、チョウジなの?」
否定するわけにもいかず、こくりと頷く。
次の瞬間、いのは体を震わせながら。
「チョウジのバカー!!」
耳元で大声で叫んだ。
「バカバカバカバカ! なんで二人とも私になにも言ってくれないのよー! 幼馴染でしょ? なんで信用してくれないの? もうシカマルもチョウジもきらい!」
今度はチョウジがあっけにとられる番だった。
いのはそのまま泣き出してしまうし、オロオロしながらシカマルに助けを求める。
「要約すると俺らの実力を知らなかったのがくやしいらしい」
もっともシカマルの実力は下忍に毛が生えた程度のものだというが、それでもいのより強い。
「もうこうなったら、私だって強くなってやるんだから。二人とも、今日から私に忍術教えなさいよ!」
シカマルが堪えきれないようにくくっと笑った。
チョウジもつられて笑う。いのにも笑顔が戻っている。
なにかに気がついたようにシカマルが指差した。
「……もしかして、あの猫」
そこにいたのは今日の任務の目標である迷い猫。
「あ、逃げた!」
いのが叫ぶ。
いつもの、遅れるフリなんかはもう必要ない。
並んで、三人は猫を追いかけ始めた。
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