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 朔の夜だった。
 三代目が顔を上げる。
 そこに人影はない。
「なにをしにきたんじゃ」
 そう言うと、地面に散らばっていた砂が一つに集まり人の形を作る。
 その中から現れたのは風影だった。
 彼はなにがおかしいのか、くつくつと笑っている。
「なにって、化け物の顔を拝みにきたのさ」
 三代目はなにも言わない。
「こやつは化け物ではない。ただの人間の赤子だ」
「ただの赤子が九尾の念に耐えられるとでも?」
「術がうまくいったんだ。それにこやつは、あの四代目の息子だからな」
 ほう、と呟いて風影は再びその赤ん坊をみた。
「で、その子は?」
 そういったのは三代目だ。
 いままで風影の後ろに隠れていた少女が顔をだす。
 まだ二歳になったばかりといった年齢。
 目の前の赤ん坊に興味深々といったところで、特に警戒をしている様子はない。
「私の長女だよ。あいつのお守をさせようと思っている」
 空気に緊張が走る。
「守鶴か」
「私は封印などという生ぬるいことはしない。せいぜいその力を利用させてもらう」
「簡単なものじゃないぞ」
「試してみるさ」
 不穏な空気に、赤子が泣き出した。
 少女も不安そうな顔で、父親の服の裾を握っている。
 風影は何も言わずに少女を抱くと、ローブを翻した。
 その瞬間、砂の混じった風になり、消える。
 三代目は重々しいため息をついた。
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