『この手紙を見ているということは、多分私は生きてはいない。』
「はあ?」
その一行から始まった手紙に、ナルトは思わず声を出す。
差出人はテマリで、彼女が簡単に死ぬとは思えなかったから。
ナルトは特に焦りもせずに手紙の続きを追う。
『うずまきは知っていると思うが私は暗部だ。』
形の残る手紙に暗部という単語を使うことにぞっとした。
『四代目の風影が死んだ今、私の加護はあまりにも少ない。』
タチの悪い冗談だ。あまりにもありきたりすぎる。
『我愛羅の姉なのだからな。そして悪いことに女だ。
砂の里は木の葉より男尊女卑の傾向があってね。
私はある暗部の任務につくことになった。くわしくは言えないし、
うずまきが今からなにかしようと思ったところで、
それは手遅れだとだけ言っておく。この手紙を書いているのは――』
そこに記されていたのはひと月以上も前の日付。
そしてここ数週間のことを思い出す。
そういえばテマリからの連絡は一度もなかった。
当たり前といえば当たり前だ。
砂と木の葉の溝はそこまで浅くは無いのだから。
もともと便りを頻繁にかわすような仲ではない。
お互いに気が向いたときに、相手の前に顔を現す。
ただそれだけの仲だったのだから。
過去にはひと月どころか半年も顔を合わせなかったこともある。
『この任務に、生存して帰る見込みはほとんどない。
もちろん上からはそんなことは聞かされてない。ただ、私がそう思っただけだ。
この手紙は伝書鳩を結界の中ひと月眠らせて、それから木の葉に向かうように指示をだしてある。』
ひと月も帰らないということは、すなわち。
ナルトはため息をついた。
そしてこの手紙を運んできた鳩をみる。
くるくると鳴くこいつはなにも知らないのだろう。
触れようとして、手になにか違和感を感じる。
鳩がさらさらと崩れていた。それは砂埃となって窓際を汚していく。
「!」
次の瞬間、いくつもの針状の忍具がナルトへと突き刺さろうとしていた。
「……こんなことだろうと思ったよ」
ナルトが言う。
かわしきれなかった千本を抜きながら、その襲撃者をみた。
その襲撃者はテマリ本人だ。
「あんたは死ぬような人間じゃないってばよ」
なんでこんなことするんだとぼやきつつ、隙だらけだったぞとテマリはつっこむ。
「もし木の葉の忍びだったら、絶対にわざとやられてないといけないんだってばよ!」
「そう、だから隙だらけだと言ったんだ。いつものお前なら私だということに気がついていただろう?」
「だいたい生きてたらなんでこの手紙が届くんだ」
間に合わなかったんだとテマリは言う。
「慌てて追いかけたらちょうど読んでいる最中だった」
読み返していたわけじゃあるまいし。あんな短い手紙を読んでいる最中に来るなんて、そんな偶然があってたまるか。
「私だって生きていられるとは思わなかったんだ。だから後悔しないように手紙を書いた」
「でも、テマリは帰ってきた」
「きっと手紙だけじゃ後悔したからな」
などとさっきとは矛盾したことをうそぶく。
「それって俺のこと?」
「他に誰がいると思う」
そこでナルトは答えをみつけられないことに気がついた。
自画自賛もいいところだ。
にやりとした笑みがもれる。
「もうこの際なんでもいいよ。おやすみ、テマリ」
ぱちんと指を鳴らした。
テマリがなにか言いかける前に、前に倒れる。
そしてナルトにもたれるようにして意識を失った。
「やっぱりもう限界なんだろ」
ふっと笑う。
それはテマリ本人にもみせたこともないような笑み。
目が覚めたら、きっと勝手に眠らせたことを怒るだろう。
「これで襲撃のことはチャラにしてやるってばよ」
彼女の寝顔をみながら、ナルトはそう呟いた。
ありがちなネタですが、楽しかったです。
PR