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アカデミーの放課後。
家に帰る準備をしていたヒナタはナルトに呼び止められた。
挨拶もなしにナルトが聞く。
「ヒナタ、昨日の夜誰かに会った?」
ヒナタは動揺を悟られないよう、なんでもないふうを装う。
痕跡はないはずだ。
仮にも相手だって暗部だし、ヒナタ自身隠滅させた。
「別に話したくないならいいけど」
そんなヒナタを見ながら、ナルトは言う。
「あんまり護衛もなしに一人でいるなってばよ?」
「なんで分かるの?」
「そうやってバラすから」
「はったりだったの?」
さあね、とナルトは肩をすくめて見せた。
彼はいつもこうだ。
そんなナルトを見ながら、ヒナタは聞く。
「ねえ、ナルトくん」
「なに?」
「大切な人、いる?」
そう言ってしまってから、ヒナタが前にも訊ねた質問だったことを思い出し。
「……あ、ごめん」
そう呟くように言った。
「いないんだったね」
「俺、ヒナタのこと好きだよ」
「ありがとう」
大切なものなんてない。自分自身すらも。 PR
暗い空。
雨の中。
霧隠れの暗部の面をつけている、黒髪の少年。
そんな彼を、ヒナタは白い瞳で見つめる。
白眼を使うまでもない、一目で分かるその強さ。
泣きたくなるような、白。
「あなたの誘拐、が任務だったけれど」
その少年が言う。
「無理みたいだね」
「……そう」
ヒナタは答える。
「分かるならいいわ」
「強いですね。まだ十にも満たないでしょう?」
「年なんて関係ないこと、あなたが一番よく知っているでしょう?」
少年は笑いをこらえるような音をだす。
そしてすぐに背をむけた。
「もういいの? 任務は?」
そんなに割のいい任務ではありませんから、なんて少年が笑う。
少なくともヒナタには、面の向こうで笑っているように見えた。
「きっとボクはあなたを殺すことくらいはできるでしょうね」
それは正論だったので、ヒナタはなにも言わない。
「だけど生け捕りは無理です。死んでしまえば人質としての価値はない。そうでしょう?」
その通りだった。
降り続く雨が沈黙をかき消していく。
少年が尋ねる。
「君には大切な人がいますか?」
「たくさん。私は欲張りだから」
迷いのない、その答え。
それだけ聞くと、少年はそのまま振り向くことなく、ヒナタの目の前を去っていった。
雨はまだ、止みそうにもない。
白と白。ありえない出会い。
試合開始の音が鳴った。
短くなった髪をつまんでみて、やっぱりバカなことをしたかな、なんていのは思う。
視線はテマリとテンテンの試合に向いていて、そのまま柵によりかかるように体重をかけた。
隣にはチョウジがいる。
めずらしくお菓子を食べていない彼もまた、目の前の試合を眺めている。
「それって同情?」
視線すら交わさない会話。
みんなの視線は試合に向いていて、誰も聞いてやしないけれど、どきりとした。
「どういうこと?」
「いのの心転身の術が、さくらなんかにやぶれるわけないでしょ」
うるさい沈黙。
砂のテマリというやつは結構できるな、なんてぼんやりとした思考で思う。
言葉を選びながら、いのは答える。
「……だって、もったいないでしょ」
どこかで言ったことのあるようなセリフだと自分でも思った。
「あの子は強くなる。それも私達のように闇に飲まれずにね」
お互いの肩に刻まれた烙印。
いのは自分のそれを指でなぞった。
チョウジはため息をつく。
「あーあ。いのがそうやって負けるんだったらボクも負けようかな」
「なーに言ってるのよ。あんたは本戦行ってもおしいものなんてなにもないでしょ」
「だってめんどうくさいもん。いのが受からなかった試験にボクが受かるわけないでしょ」
「それは……」
そしてアカデミーでの成績を考える。
いのは強い。けれどバカにされることは自分が許せないから、せめて下忍レベルでの一番の成績を維持している。
それに対してチョウジは強さを隠しきれているのだ。
今度はいのがため息をつく。
「好きにすれば?」
初のナルト以外のスレ。
ナルトは先日付けで暗部になったばかりだった。
初任務はアカデミー内の調査と名家の生徒達の護衛。
「でもどうやって入ることにすればいい? 俺はまだ四歳だ」
アカデミーに年齢制限はないとはいえ、平均入学年齢より二歳も年下である。
器があまり優秀すぎても畏怖の対象になってしまう。
畏怖があれば混乱が起き、里に混乱が起きれば一番困るのは――本人達だろうに。
それでも育て親である三代目がいろいろと面倒をこうむることは目に見えている。
だからナルトは実力を誇示しない。それが九尾のおかげでもせいでもなんでもなく、努力による代物だとしても。
返事はなかなか返ってこない。
ナルトは一つの可能性に思い当たり、おそるおそると訊ねた。
「もしかして……じっちゃんそこまで考えてなかった?」
三代目はがっくりと肩を落とす。
「お主が四つの子供に見えないせいじゃ」
「俺のせいかよ!」
ナルトはふと考える。
初任務が不戦敗に終わるのは悲しい。
「じゃあさ、監視ってことでどうだ?」
ナルトは淡々と説明を始める。
家の中で虫を見つけてしまったら目で追ってないと安心できないように、危険なものは目の届く範囲に置くのが一番安心できる。
その心理を利用して、そういう噂を先に流しておいてから入学させてはどうか。
けして優秀だからじゃなく、九尾の器だから。
「それでいいのか?」
自分の境遇さえも利用してしまおうというそれに三代目は尊敬と悲しみの念を抱いた。
「なーにをいまさら。そんなに俺がかわいそうなら初めから封印しなけりゃよかったんだ」
けらけらと笑う。
「そんなの嫌だけどね。今の自分でなくなってしまうのは」
背負うモノ。バッカみてえ。
名前を呼ばれた。
振り向かなくてもとっくに気がついている。
それでもここは公共の場所で、だから聞こえないフリをする。
「ナルト!」
今度は一段階大きな声で呼ばれた。
ナルトは駆け出す。
その後ろを誰かは追いかける。
いくつかめの角。
その人物を待ち構え、その腕をひっぱると近くの使われてない教室の中に連れ込んだ。
ドアがしまる音。
ずいぶんな距離を走ったはずなのに、ナルトの息は少しも乱れてない。
そして振り向いて言った。
「テンテン。お願いだから、みんなのいるところでは俺の名前呼ばないでくれる?」
どうなるかはご存知の通り。
それはどうしようもないことで、どうにもならないことを知っているから、彼女達はいつもなにも言わない。
それでも彼女は彼女なりに理不尽を感じているらしく、その清算をつけるためにこんなことをしてくる。
「だってそれじゃ、なんか寂しくない?」
「寂しくないってばよ! テンテンたちになにかあったら、それこそ――」
そこで一度声がつまる。
ナルトはごまかすようにせきをした後。
「……今日のことはもういいってばよ。今度こんなことがあったら有無を言わずに記憶操作するから」
「えー嫌だなー。私達三人とも幻術に疎いもの。反撃できないじゃない」
それに、とテンテンは続ける。
「私達なにも知らないのよ?」
子供は十二年前の事件をなにも知らない。
教科書には載っているものの、封印された器についてはなにひとつ知られてはいない。
「大人達の負の感情を感じ取って、子供達に伝染しているんだとしたら。今度は私達から正の感情を伝染させればいいじゃない。そりゃあ大人は認めてくれないかもしれないけど……」
「それで?」
ナルトが聞き返す。
「それで、どうするの? 仲が良くなって、いつかそいつらにバレて、拒絶されたら? 全員が全員、テンテン達みたいに受け入れてくれると思う?」
「だからってこれからずっと認められることを諦めるつもり? 認めてほしいのは、いつもの演技とかそういうのは関係ないでしょ」
「そうだよ認めてほしい。でも今じゃない。テンテンが思ってるほど、俺は強くないんだってばよ。はっきりいって怖い」
むう、とテンテンはうなる。
「じゃあ妥協して。お昼は絶対一緒に食べること。誰も来ないいい場所。私達知ってるから」
そう言って指をつきつけるテンテン。
彼女達にすらまだ話してはいないことがたくさんある。
ひとつひとつの嘘をかみ締めて、ナルトは笑ってみせた。
友達の資格なんてないのかもしれない。
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