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 朔の夜だった。
 三代目が顔を上げる。
 そこに人影はない。
「なにをしにきたんじゃ」
 そう言うと、地面に散らばっていた砂が一つに集まり人の形を作る。
 その中から現れたのは風影だった。
 彼はなにがおかしいのか、くつくつと笑っている。
「なにって、化け物の顔を拝みにきたのさ」
 三代目はなにも言わない。
「こやつは化け物ではない。ただの人間の赤子だ」
「ただの赤子が九尾の念に耐えられるとでも?」
「術がうまくいったんだ。それにこやつは、あの四代目の息子だからな」
 ほう、と呟いて風影は再びその赤ん坊をみた。
「で、その子は?」
 そういったのは三代目だ。
 いままで風影の後ろに隠れていた少女が顔をだす。
 まだ二歳になったばかりといった年齢。
 目の前の赤ん坊に興味深々といったところで、特に警戒をしている様子はない。
「私の長女だよ。あいつのお守をさせようと思っている」
 空気に緊張が走る。
「守鶴か」
「私は封印などという生ぬるいことはしない。せいぜいその力を利用させてもらう」
「簡単なものじゃないぞ」
「試してみるさ」
 不穏な空気に、赤子が泣き出した。
 少女も不安そうな顔で、父親の服の裾を握っている。
 風影は何も言わずに少女を抱くと、ローブを翻した。
 その瞬間、砂の混じった風になり、消える。
 三代目は重々しいため息をついた。
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 私の体には暗部のいれずみがある。
「へーテマリさんも暗部なんだー」
 なぜか羨ましそうな声でいのが言う。
「まあな」
 私たちは待ち合わせの場所である団子屋にいた。
 席は木の板にござを敷いただけの簡単なものだ。
 砂の里では見られない光景だ。それは木の葉の里に砂嵐がないからだろう。
 団子をほおばっていると、隣でいのの呟く声が聞こえた。
「……私も暗部になろうかな」
「駄目だ」
「えー?」
 非難するような声。
「暗部は、多分山中が思ってるより、好いものではないよ」
「でもさー」
「テマリさんと、シカマルは付き合ってるんでしょ?」
 水面に小石が投げられたぐらいの、動揺。
「なぜ知ってる?」
「幼馴染なめないでよ。忍術はあなたたちのほうがずっと上なんだろうけどね」
 なるほど、心転身の術を使うだけはある。内面には聡いらしい。
 いのはため息をついた。
「……私もナルトと同じことがしたい」
 その待ち合わせの相手であるナルトとシカマルがきたのはそれから小一時間ほどたってからだった。
「ナルトおっそーい!」
 といのが言う。
「うるさいってばよー。Sランクの任務なめるな」
 ぎゃあぎゃあ騒いで歩く彼らを前に、テマリとシカマルは静かに並んで続く。
「あの子は、お前の初恋の女なのか?」
「はあ?」
「思いついただけだ」
 シカマルはしばらく困ったように黙っていたが。
「……そうだよ」
 それを聞いて、テマリはにやりと笑う。
「そうか。私も負けてられないな」
「めんどくせーな。なんの話だよ」
 怪訝そうな顔をする彼を置いて、テマリは少しだけ足を早めた。
 テマリは少しだけ本当のことを言わなかった。
 シカマルとは付き合ってはいない。
 だけどテマリがシカマルに好意を持っているのは事実だ。
 後ろから風が吹く。それはまるで追い風のようだった。
「腹に何を飼っている?」
 狐、と少年はめんどくさそうに短く答えた。

そろそろこのやり取りが嫌になってきた。
 ざあっと砂が舞う。
「いいかげんにしろってばよ」
 まるで小さい子をたしなめるような口調だった。
 子供扱いされたのは久しぶりで、我愛羅は目を見開いた。
 あたりは半壊しており、それが自分がやったのだと気がつくのにしばらくかかった。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんの言うことは聞かないと駄目だってば」
 そうナルトは言う。
 よく見たら、結界のように我愛羅を取り囲んでいるのは封印式だ。
 それはチャクラで彼の印とつながっている。
 同じくらいの年齢の少年が。
 我愛羅には自分の力の制御なんてできないので、純粋にナルトのことをおどろいた。
 遠くに横になっている自分の兄弟の姿が見えた。
「っ!」
 名前を呼ぼうとする。が、声がでない。
 くやしくて、涙がでそうになる。
 だけど泣きつかれた体からは液体なんてもちろんでない。
 我愛羅は衝動的にクナイを自分の腕に突きつけた。
 それは砂の鎧が自動的に守ってくれる。
 その様子を諦観していたナルトは笑う。
「死にたきゃ死ねよ」
「うずまき!」
 後ろでテマリが叫ぶ。
「それ以上言ったら許さない!」
 うるさそうに、でも聞こえないフリをした。
「……どうせ死んだら後悔なんてできないんだから」
 ささやくような、甘美な誘惑。
「俺なら今のお前を殺せる。どっちの言うことを聞く?」
 我愛羅はまだ選択をできてない。

いままで死にたくても死ねなかった少年が、
いきなり死の選択をせまられて、それでも死を選べるかどうかという話。
「いるかせんせー」
 少年は真新しい額あてを気にしながら、アカデミーまでの道のりを歩く。
「ん?」
「俺、もうわかったから」
 イルカが隣を見て、驚く。
 いつもの笑顔ではない、無理やりつくったような表情。
「認めてくれるわけないってばよ」
 そんなことない、と言おうとする前に。
「大丈夫。一人でも認めてくれたから」
 それじゃあとナルトはわらっていつもの笑顔にかわった。
 去り行く彼を前に、イルカはもう一度だけ夢を訊ねた。
「なに言ってんの。火影に決まってるってばよ」
 そして手を大きくふる。
 いつものナルトだった。それを見て安心する。
 ナルトを見送りながら、今日のことをイルカは深く考えずにいた。
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