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 きれいな満月の夜だった。
 人は快楽には慣れるくせに、痛みには慣れることはない。
 それもそのはずで、痛みという感覚が抜け落ちてしまえば人は生き残ることが困難になってしまう。
 でもナルトはほとんどの場合、死ぬような目というものにあわない。
 多少の怪我はなんでもないことなのだ。この体は。
 それが化け物である証である気がして、少しだけうんざりする。
 息を吸おうとして、むせる。
 やっぱり苦しい。
 でもそれは許容範囲内のものだ。
 肋骨も何本か折れてるし、でもそれはあと一時間もすれば直ってしまうだろう。
 むしろ明日からの怪我の演技のほうにうんざりしているくらいだ。
「痛いなあ」
 思わず呟いてしまう。
 どうせ治るのなら、初めから痛くなければいいのに。
 泣こうとして、それが余計に痛みが体を蝕むだけとわかっていたから、やっぱりやめた。

「大丈夫?」
 初めは幻聴かと思った。
 焦点のなかなか合わない目をこらす。
 と、ようやく人影がみえる。
 白い肌を覆い隠すような、闇の色に似た装束。
 それでも見つけられたのはひとえに月の明るさ、といいたいところだがこれも九尾のおかげだ。
 口の端をあげる。
「へーきだってばよ」
「嘘ばっかり」
 ヒナタが言う。
 そう言って差し出したのはぬり薬だ。
 ナルトはそれをありがたく受け取る。
 勝手に治る傷ではあるが、ヒナタのそれは特別だ。
 治る薬ではない。
 麻薬の成分とよく似た、強力な痛み止めだ。
 依存はない。
 ナルトに限って。
 抗体がまったくできない体なのだ。
 できたとしてもすぐに九尾の力にやられてしまう。
 裏を返せばどんな毒にも慣れることはない。
 治る体にはそんなもの無意味だ。
 痛みだけが変わらずに慣れない。
 宿主に、そこまで九尾はやさしくはない。
 普通の人間には使えない禁薬をナルトはぺたぺたと体に塗った。
 すぐに痛み止めは効果をなくしてしまうだろうが、その頃には傷自体が治っている。
 痛みをなくした体で、思ったより憔悴していたことに気がついた。
「少しは自分のこと、大事にしなよ」
「ヒナタが俺のことに気を配ってくれているから、それでいいよ」
 お願いだから、やさしくしないで。
「ナルトくん?」
 ナルトの手が、ヒナタの頬に触れる。
 大切なんかじゃないよとうそぶいて。
 それは彼女を守る一つの手段だ。
 ただでさえ、自分のせいでひどい目にあっているというのに。
 今の状態が心地よすぎて、ずっと彼女に甘えている。
 だからナルトはこの手を振り払ってくれればいいなんて思った。
 彼女がそんなことするわけないと知りながら。


 たとえ傷つける目にあわせることになっても。 ずるい自分は彼女を絶対に手放そうとはしないだろう。

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