他の国の、宿のある一室。
テマリはため息をつきたくなった。
周囲にはどう写っているのだろうか。
「うずまき、何しに来た?」
「任務」
ナルトは楽しそうに答える。
彼の正体を知って、それを受け入れてからというものの、ナルトはテマリを放さない。
テマリもそれが木の葉や砂の里の中では咎めやしない。
ただ、今は暗部の任務中なのであった。
もちろんその仕事はナルトにも秘密だ。
同じ里の者ですらない彼に言えるはずもない。
それならばなぜナルトがここにいるのかと問われれば、遊びにきたという彼に見つかっただけのこと。
そして彼はその格好のまま身一つでついてきた。
なにが任務だ。
「どうせそれもまた、私について歩くための口実なのだろう?」
「いや今回は本当。でもこれ以上は企業秘密だってばよ」
今のテマリは髪を解き、いつもの忍装束ではない一般の観光客のような身なりだった。
この格好では武器をほとんど仕込むことができない。
しかしこのあたりはまだ砂の里とも面識があり、砂の姫君であるテマリは注意を引く。
逆に木の葉の九尾、なんて誰も気にも留めない。
変化してくればよかったかとも思ったが、無駄な体力は消耗したくはなかった。
しばらくして、宿のお上さんがやってくる。
二人を見て、姉弟で旅行ですかいいですねえと勝手なことをいう。
「姉弟、だってさ」
彼女の気配が消えるころ、ナルトは含み笑いを持たせた声で言った。
そういえば。
私たちの髪は同じ金色なのだった。
テマリは眠らない。
眠っていても、どこかしら覚醒していて、何があっても対処できるようにしている。
それがつらいことだとは思わない。
実の弟に比べたら、はるかにマシだ。
だけどそれは、力量が下のものだから通用するのであって、テマリ以上の実力を持ってしまえば、そんな技術は気休めに過ぎず、やすやすと命を奪われてしまうだろう。
そのときは命を奪われはしなかった。
だけども。
「……あんたが化け物って言われる理由がわかったよ」
テマリが言う。
眠っていたとはいえ、一枚の襖を隔てた彼が気配を悟られずに術を使ったという事実。
夜中、目が覚めると彼はそこにはいなかった。
仮初の気配だけを残して。
すぐにテマリは行動に移す。
その屋敷には、予想に違わず人の気配はない。
目的地は寝室。
木の葉の暗部装束が見える。
近くにはテマリの標的である男が倒れている。
「なにをした?」
「別に」
「任務、本当だったんだな」
「俺がテマリに嘘をついたことがあった?」
「どうだか」
そっけなく言うと、ナルトはくっと笑った。
「もう殺す必要はないよ」
テマリはなにも言わずにいうと、彼は続ける。
「まあ、テマリの任務内容なんて分からないけれどね。どう考えても失敗だろ?」
テマリは隠してあったクナイを握り、男へ投げつける。
何も、起こらない。
男は規則正しい呼吸を続けているし、クナイが弾かれたようすもない。
それは音もなく、ナルトの手に収められていた。
嫌な汗が背中を流れる。
「俺はこれから直接、風影とあんたの依頼人に会いに行く。明日になればこの失敗も咎められやしないってばよ」
長くもない沈黙。
ナルトは男を軽々と担ぐと窓に足をかける。
「うずまき」
そう呼ぶと彼は振り向いた。
「お前の依頼人は?」
ナルトは少し困ったような顔をした。
「こいつの奥さん」
そしてつぶやくように言った。
「絶対殺させやしないでくれってさ」
残されたテマリは窓の向こうの空を眺める。
朔の夜。一人の暗部は深い闇に紛れた。
任務での顔。
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