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お互いに、相手のことに気がついた。
めんどくさい、と思いながら、シカマルは周りの人間の気配を数えてみる。
二、四、六……七人。
目につく人の数と一致した。
しかも忍びはその中に含まれていない。
めずらしくナルトは誰にもつけられてないらしい。
少しだけ安心して、そのまま前に歩く。
ナルトもこちらへ歩いてくる。
視線も合わせずにすれ違う。
「おい」
シカマルがナルトの腕を掴む。
今のナルトはオレンジのジャージを羽織っておらず、黒い半そでの姿だ。
「なんだってばよ」
「なんのつもりだ?」
シカマルは掴んだ手とは反対の手を指さした。
半そででほとんどが隠れてはいるが、まぎれもなく暗部の印が刻まれている。
ナルトは確認しようともせずに言う。
「ああ、忘れていたよ」
シカマルは自分の手でその印を隠すように触れる。
手の平が離れたときはもうそこになんの痕跡もなかった。
「おーサンキュ」
「ナルト」
「それにしてもお前術うまくなったなー。印を結ばなくてもできるようになったんだ?」
明るく笑う彼を見て、シカマルは頭が痛くなった。
「お前、見られてもいいって思ってないか?」
「別に?」
失くすものなんかとっくに失くしてる。 PR
普段は暗い水の中にすっぽりと隠れていて誰にも見えない。
水面下では暴れてのたうちまわっているくせに、少しでも水位が下がり人の目に触れる状態になると、やっぱりみんなの望む姿だけがそこにある。
それはもう半自動的で、生きるために備わっている痛覚や反射と同じようなものだ。
少なくともその少年にとっては。
「暗部にならないか」
三代目火影がそう持ちかけたのはナルトが四歳のころだった。
ナルトは最初三代目が何を言っているのか分からなかった。
難解な言葉ではない。音にしてたった九字の言葉の意味を彼は知っていた。ただ理解できなかっただけで。
その感覚は望んでやまなかったものを不意に手に入れてしまい、持て余しているのに似ていたかもしれない。
言葉の実感は後からわいてきて、ナルトの顔が喜びの色に満ちていく。
「じっちゃん、それ」
本当だってば? と続く前に三代目はさえぎるようにして条件をつけた。
「ただし、それを治す努力をしろ」
ナルトの表情がうってかわって暗くなる。
それでも苦笑のような笑みを浮かべてしまい、言われたばかりのナルトはすぐそれに気がついた。
ナルトの口からごめん、と言葉が出た。
「ごめん」
もう一度そう言うとナルトは顔を歪ませる。
「もういい、ナルト」
火影が言う。
「今はできなくても努力してくれればいい」
通常スレ。きっかけ。
サスケがナルトの家を訪ねると、鳩がそこにいた。
「どうした?」
「拾った」
その鳥は怪我をしていたが、人によく慣れているらしい。
怯えもせず、ナルトの用意したタオルケットに収まっている。
「伝書鳩か?」
「そうだってばよ? なんで聞くんだ?」
そう、忍びならその動物がどんな用途に使われるのか見れば分かる。
だがあえて聞いたのはその鳩が雪のように真っ白だったからだ。
「珍しいな」
「ああ。どっかの金持ちの戯れ用だろうな。白は狙われやすいのに」
そう答えてナルトは触れようと手を伸ばした。
バサリ、翼がはばたいた。
サスケかネジか迷ったけど結局サスケに。
姉であるヒナタの様子がおかしいと気がついたのはいつだろうか。
ハナビが今よりもずっと幼いころから変わらない強さはいつも不思議に思っていた。
姉さんは修行をサボっているわけでもなく、落ちこぼれであるはずもない。
その理由に思い当たった瞬間、ハナビの集中力が途切れた。
チャクラの制御が足の裏から拡散して、体が落下する。
地面に着地する瞬間、ハナビは態勢を整え着地した。
木の傍には稽古の教育役であるネジがいる。
「ハナビ様、お怪我はありませんか?」
大丈夫ですと、ハナビは答える。
「今日は調子がよくないみたいですね」
ネジはそういって額に手をやる。
ハナビはそれを振り払うと、言った。
「私、強くなりたくないです」
ネジは珍しく困ったような顔をした。
そして彼はハナビに視線を合わせる。
「そう望んでいるのは」
理由も聞かずにネジは答える。
「あなただけではないってことですよ」
それを聞くとハナビは顔をあげ、再びうつむいた。
私はバカだ。
一番弱いくせに、みんなに認められているつもりで、ただ守られているだけなのだと。
それが悔しくて、悲しくて、涙がでた。
守りたい者がいる。
他の国の、宿のある一室。
テマリはため息をつきたくなった。
周囲にはどう写っているのだろうか。
「うずまき、何しに来た?」
「任務」
ナルトは楽しそうに答える。
彼の正体を知って、それを受け入れてからというものの、ナルトはテマリを放さない。
テマリもそれが木の葉や砂の里の中では咎めやしない。
ただ、今は暗部の任務中なのであった。
もちろんその仕事はナルトにも秘密だ。
同じ里の者ですらない彼に言えるはずもない。
それならばなぜナルトがここにいるのかと問われれば、遊びにきたという彼に見つかっただけのこと。
そして彼はその格好のまま身一つでついてきた。
なにが任務だ。
「どうせそれもまた、私について歩くための口実なのだろう?」
「いや今回は本当。でもこれ以上は企業秘密だってばよ」
今のテマリは髪を解き、いつもの忍装束ではない一般の観光客のような身なりだった。
この格好では武器をほとんど仕込むことができない。
しかしこのあたりはまだ砂の里とも面識があり、砂の姫君であるテマリは注意を引く。
逆に木の葉の九尾、なんて誰も気にも留めない。
変化してくればよかったかとも思ったが、無駄な体力は消耗したくはなかった。
しばらくして、宿のお上さんがやってくる。
二人を見て、姉弟で旅行ですかいいですねえと勝手なことをいう。
「姉弟、だってさ」
彼女の気配が消えるころ、ナルトは含み笑いを持たせた声で言った。
そういえば。
私たちの髪は同じ金色なのだった。
テマリは眠らない。
眠っていても、どこかしら覚醒していて、何があっても対処できるようにしている。
それがつらいことだとは思わない。
実の弟に比べたら、はるかにマシだ。
だけどそれは、力量が下のものだから通用するのであって、テマリ以上の実力を持ってしまえば、そんな技術は気休めに過ぎず、やすやすと命を奪われてしまうだろう。
そのときは命を奪われはしなかった。
だけども。
「……あんたが化け物って言われる理由がわかったよ」
テマリが言う。
眠っていたとはいえ、一枚の襖を隔てた彼が気配を悟られずに術を使ったという事実。
夜中、目が覚めると彼はそこにはいなかった。
仮初の気配だけを残して。
すぐにテマリは行動に移す。
その屋敷には、予想に違わず人の気配はない。
目的地は寝室。
木の葉の暗部装束が見える。
近くにはテマリの標的である男が倒れている。
「なにをした?」
「別に」
「任務、本当だったんだな」
「俺がテマリに嘘をついたことがあった?」
「どうだか」
そっけなく言うと、ナルトはくっと笑った。
「もう殺す必要はないよ」
テマリはなにも言わずにいうと、彼は続ける。
「まあ、テマリの任務内容なんて分からないけれどね。どう考えても失敗だろ?」
テマリは隠してあったクナイを握り、男へ投げつける。
何も、起こらない。
男は規則正しい呼吸を続けているし、クナイが弾かれたようすもない。
それは音もなく、ナルトの手に収められていた。
嫌な汗が背中を流れる。
「俺はこれから直接、風影とあんたの依頼人に会いに行く。明日になればこの失敗も咎められやしないってばよ」
長くもない沈黙。
ナルトは男を軽々と担ぐと窓に足をかける。
「うずまき」
そう呼ぶと彼は振り向いた。
「お前の依頼人は?」
ナルトは少し困ったような顔をした。
「こいつの奥さん」
そしてつぶやくように言った。
「絶対殺させやしないでくれってさ」
残されたテマリは窓の向こうの空を眺める。
朔の夜。一人の暗部は深い闇に紛れた。
任務での顔。
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