暗い空。
雨の中。
霧隠れの暗部の面をつけている、黒髪の少年。
そんな彼を、ヒナタは白い瞳で見つめる。
白眼を使うまでもない、一目で分かるその強さ。
泣きたくなるような、白。
「あなたの誘拐、が任務だったけれど」
その少年が言う。
「無理みたいだね」
「……そう」
ヒナタは答える。
「分かるならいいわ」
「強いですね。まだ十にも満たないでしょう?」
「年なんて関係ないこと、あなたが一番よく知っているでしょう?」
少年は笑いをこらえるような音をだす。
そしてすぐに背をむけた。
「もういいの? 任務は?」
そんなに割のいい任務ではありませんから、なんて少年が笑う。
少なくともヒナタには、面の向こうで笑っているように見えた。
「きっとボクはあなたを殺すことくらいはできるでしょうね」
それは正論だったので、ヒナタはなにも言わない。
「だけど生け捕りは無理です。死んでしまえば人質としての価値はない。そうでしょう?」
その通りだった。
降り続く雨が沈黙をかき消していく。
少年が尋ねる。
「君には大切な人がいますか?」
「たくさん。私は欲張りだから」
迷いのない、その答え。
それだけ聞くと、少年はそのまま振り向くことなく、ヒナタの目の前を去っていった。
雨はまだ、止みそうにもない。
白と白。ありえない出会い。
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