名前を呼ばれた。
振り向かなくてもとっくに気がついている。
それでもここは公共の場所で、だから聞こえないフリをする。
「ナルト!」
今度は一段階大きな声で呼ばれた。
ナルトは駆け出す。
その後ろを誰かは追いかける。
いくつかめの角。
その人物を待ち構え、その腕をひっぱると近くの使われてない教室の中に連れ込んだ。
ドアがしまる音。
ずいぶんな距離を走ったはずなのに、ナルトの息は少しも乱れてない。
そして振り向いて言った。
「テンテン。お願いだから、みんなのいるところでは俺の名前呼ばないでくれる?」
どうなるかはご存知の通り。
それはどうしようもないことで、どうにもならないことを知っているから、彼女達はいつもなにも言わない。
それでも彼女は彼女なりに理不尽を感じているらしく、その清算をつけるためにこんなことをしてくる。
「だってそれじゃ、なんか寂しくない?」
「寂しくないってばよ! テンテンたちになにかあったら、それこそ――」
そこで一度声がつまる。
ナルトはごまかすようにせきをした後。
「……今日のことはもういいってばよ。今度こんなことがあったら有無を言わずに記憶操作するから」
「えー嫌だなー。私達三人とも幻術に疎いもの。反撃できないじゃない」
それに、とテンテンは続ける。
「私達なにも知らないのよ?」
子供は十二年前の事件をなにも知らない。
教科書には載っているものの、封印された器についてはなにひとつ知られてはいない。
「大人達の負の感情を感じ取って、子供達に伝染しているんだとしたら。今度は私達から正の感情を伝染させればいいじゃない。そりゃあ大人は認めてくれないかもしれないけど……」
「それで?」
ナルトが聞き返す。
「それで、どうするの? 仲が良くなって、いつかそいつらにバレて、拒絶されたら? 全員が全員、テンテン達みたいに受け入れてくれると思う?」
「だからってこれからずっと認められることを諦めるつもり? 認めてほしいのは、いつもの演技とかそういうのは関係ないでしょ」
「そうだよ認めてほしい。でも今じゃない。テンテンが思ってるほど、俺は強くないんだってばよ。はっきりいって怖い」
むう、とテンテンはうなる。
「じゃあ妥協して。お昼は絶対一緒に食べること。誰も来ないいい場所。私達知ってるから」
そう言って指をつきつけるテンテン。
彼女達にすらまだ話してはいないことがたくさんある。
ひとつひとつの嘘をかみ締めて、ナルトは笑ってみせた。
友達の資格なんてないのかもしれない。
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