いのは先生に言いつけられた通りに教材を教室へと運び込む。
今は休み時間。
教室に入るとあたりの喧騒から切り離されたように、音が一段遠くなった。
「あーもう。重い!」
いのが叫ぶと誰かの呻き声が聞こえた。
誰もいないと思い込んでいたのでひどく驚くが、すぐにその誰かを見つけた。
最後尾の列の端、ナルトが机につっぷして眠り込んでいる。
いのはなにか思い出したように、含み笑いをする。
ちょうどいい、なんて単語が頭に浮かんだ。
今度は意識して起こさないように彼に近づく。
そして、印を結ぶ。
「心転身の――」
その言葉は途中で遮られた。
印を結んだその手がなにものかによって捕まれたからだ。
驚くいのに、その人物は答える。
「なにやってるんだよ……」
そう、ナルトが言った。
「あんた誰?」
「ナルトだってばよ」
「うそつき。誰かが化けてるの?」
「俺に化ける暇人なんてそうそういない」
「じゃあなに? あんたは一瞬で私の後方に回って止めたっていうの?」
「そういうことになるってばよ」
いのはなんだか話がかみ合ってない気がした。
「大体俺がなにしたっていうんだよ。さっきの心転身の術だろ? 精神のっとるってやつ」
練習台、なんてセリフはとてもじゃないが言えなかった。
「……とにかく、下忍のレベルじゃないわよそれ」
「正解。いのは頭いいな」
いのはため息をついた。
「なんでそれ隠してるわけ?」
「九尾の器だから」
「え?」
彼が単刀直入に話し出す。
いのがその全てを理解するのには時間がかかった。
「まあ九尾の力なんて治癒以外に使ってないけど。こればっかは不可抗力だし」
「え? 使ってないの?」
「命狙われ続けてたらそんなものに頼らなくたってこうなる」
数十秒の沈黙。
「……なんで私に話すの?」
いのが訊ねる。
「友達だから? 信用できるから? そうじゃないでしょ」
ナルトは笑う。
「……いのは頭いいな」
そして壁にかかっている時計をみた。
いのもつられてそれをみる。
休み時間はあと五分だった。
そろそろみんなが帰ってくる。
「免疫つけてんの」
ナルトは話し出す。
「記憶操作なんて便利な術はあるけれど、完璧じゃない。俺だっていつまでもこんなことしていたくないし。だから真実を知らす前に、忘れられる記憶の中から慣らしていく」
いのはその淡々としたセリフを聞いていた。
「そうすれば、受け入れてくれる」
そういえば、といのは思う。
クラスメートが九尾を腹に飼っているなんて、もっと衝撃を受けてもいいはずなのに。
いのはくすりと笑う。
すでに自分は幾度も侵食されているのかもしれない。
そして誓う。
これが、最後。
「させないよ」
印を結びかけたその手を、今度はいのが押さえる。
「私は、忘れない」
青いその目を見据える。
そして、不敵な笑みを見せた。
ナルトが困惑している隙をついて、いのは駆け出す。
そして廊下の向かい側からくるクラスメートの中へと紛れ込んだ。
記憶操作されたかされなかったかは、また別のお話。
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